なぜ蚊に刺されやすい人と、刺されにくい人がいるのか?

円卓を囲んで会議をする5匹の蚊のイラスト。テーブルにはターゲット選定資料と血液型別評価表が置かれ、1匹の蚊が「O型の田中さんがおすすめです!」と発言している
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小さな虫がもたらす大きな謎

夏の夕暮れ、公園のベンチに腰かけているとしましょう。
隣の友人は何ごともなく談笑を続けているのに、自分だけ足首に赤い点が次々と増えていく。
そんな経験はありませんか?

まるで「蚊に好かれる人」と「蚊に嫌われる人」がいるかのようです。

体長わずか数ミリの蚊。
けれど、この小さな生き物を侮ってはいけません。
世界保健機関(WHO)は、蚊を「人類最大の敵」と呼びます。

マラリアやデング熱、日本脳炎など、蚊が媒介する感染症でいまも年間70万人以上が命を落としています。
蚊は、地球上で最も多くの人間を死に至らしめる生物なのです。

それにしても、なぜ蚊に「刺されやすい人」と「刺されにくい人」がいるのでしょうか。

この記事では、この身近な疑問を出発点に、蚊が人を選ぶメカニズムを科学的に解き明かしていきます。
小さな針が突きつける「なぜ?」に、きっちり答えていきましょう。

表彰台に立つ3人と蚊の審査員団のイラスト。1位の人は多数の蚊に囲まれ、2位・3位は徐々に蚊が減少。蚊の審査員がメモを取ったり点数カードを掲げたりしている。看板に「蚊モテ度コンテスト」
まるで「蚊モテ度コンテスト」が開催されているかのように、なぜか特定の人だけが選ばれてしまう不思議。この小さな審査員たちは、いったい何を基準に私たちを品定めしているのでしょうか?

蚊が寄ってくる三大要因 ― 体温・二酸化炭素・水

人を選ぶとき蚊は、気まぐれに飛び回っているわけではありません。
研究者によれば、彼らが寄ってくる最大のサインは「体温」「二酸化炭素」「水」の三つです。
人間の体が放つこれらの信号は、まるで夜の空港に灯る誘導灯のように、蚊を確実に導いてしまいます。

体温 ― 「熱気あふれる人」は狙われやすい

子どもや妊婦さん、あるいは運動直後の人は体温が高くなりがちです。
蚊はその熱を敏感に感じ取り、まるで温泉宿の看板を見つけた旅行者のように吸い寄せられていきます。

さらに、汗に含まれる乳酸も誘因物質のひとつ。
「走ったあとに限って刺される」のは、偶然ではありません。

二酸化炭素 ― 蚊を呼び寄せるサイン

人は息をするたびに二酸化炭素を吐き出しています。
運動や飲酒で呼吸が荒くなれば、その排出量は一気に増加します。
蚊は数十メートル先からでもこの二酸化炭素を嗅ぎつけ、迷わず近づいてくるのです。

体格が大きい人ほど排出量も多く、「大柄な人が刺されやすい」というのも理にかなっています。

水 ― 湿気と発生源の二つの顔

蚊が卵を産み、幼虫(ボウフラ)が育つのは、必ず水のある場所です。
蚊にとって水はまさに生命線
発汗で皮膚に残った水分や湿気も、蚊を引き寄せるサインになります。

さらに、庭の植木鉢の受け皿や雨水のたまったバケツ、古タイヤに残る水。
これらはボウフラの保育園そのもの。
数日も放っておけば、新人モスキート軍団が次々とデビューし、刺されるのは時間の問題です。

この三大要因が重なると、状況は最悪です。
夏の夕暮れ、汗をかいて体温が上がり、呼吸も荒い。
近くの植木鉢に水がたまっていれば、蚊にとって理想の舞台を人間が整えてしまったようなものです。
本人はただ涼んでいるつもりでも、蚊から見れば「VIP専用ラウンジを用意してくれてありがとう」と言いたくなる状況なのです。

人間のシルエットから3色の光線が放射状に出ているイラスト。赤い光線は体温、青い光線は二酸化炭素、緑の光線は水分・湿気を表し、5匹の蚊がそれらの光線に向かって飛んでくる様子
蚊にとって人間は「歩く誘導灯」!体温・二酸化炭素・水分の3つの信号が、まるで空港の誘導灯のように蚊を確実に導いてしまいます。この3つが重なると、蚊にとって理想的な「VIP専用ラウンジ」の完成です。

肌の「におい」が分かれ道

蚊は「血の味」で人を選ぶわけではありません。
実際に刺す前からターゲットを決めています。
その判断材料のひとつが、人間の肌から漂う「におい」です。

とくに注意するべきは足裏の常在菌。
皮膚にすむ細菌が汗や皮脂を分解し、カルボン酸などの揮発性物質をつくります。
カルボン酸は特有のにおいを放ち、これが蚊を引き寄せる信号になるのです。
足を洗った直後は刺されにくい、と感じる人が多いのは、この「においの源」が一時的に減るからだと説明できます。

とはいえ、皮膚にすむ常在菌の種類やその組み合わせ次第で、生成されるカルボン酸の「配合」は人によって少しずつ異なります。
ある種のカルボン酸は蚊にとって心地よいメロディーのように響き、別の成分はむしろ雑音のように聞こえる。
蚊が受け取る「においの楽譜」が人ごとに違うからこそ、『刺されやすい人』と『刺されにくい人』が生まれるのです。

足裏を拡大したイラストに様々な色の細菌キャラクターが住んでいる様子。中央に「-COOH」と書かれた工場があり、細菌たちが汗や水分からカルボン酸を製造している。周囲に蚊が飛んでいる
足裏は小さな「においの工場」!皮膚に住む常在菌たちが汗や皮脂を分解してカルボン酸を作り出し、それが蚊にとって最高の「ディナーの呼び鈴」になってしまいます。足を洗うだけで蚊避け効果があるのはこのためです。

完全に選ばれないようにすることは難しいですが、できる工夫はあります。
それは意外と単純で、足や体を清潔に保つこと。
それだけで、蚊に対する「歓迎のサイン」をかなり弱めることができるのです。

血液型と遺伝の影響 ― 本当にO型は狙われやすい?

「O型は蚊に刺されやすい」―― そんな話を聞いたことはありませんか。
これは単なる都市伝説ではなく、実際の研究でもその傾向が示されています。

たとえば2004年の日本の実験では、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)が人の皮膚に着陸する回数を調べたところ、O型の人はA型の人よりも有意に多く狙われました。
さらに2019年スリランカの研究では、皮膚の代わりとなる薄い膜の向こうに4種類の血液を用意して比較したところ、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)はO型の血液を最も好んで吸ったと報告されています。

ただし、この差は「O型の人だけが特別に狙われる」というほど大きなものではありません。
そのため、血液型の違いよりも、体温や二酸化炭素の排出、皮膚のにおいといった要因のほうが影響力は大きいと考える研究者たちもいます。

一方で、遺伝子そのものが刺されやすさを左右することも明らかになってきました。
双子を対象にした研究では、一卵性双生児(遺伝子がほぼ同じ)は刺されやすさの傾向がよく似ており、二卵性双生児(遺伝子が半分しか共通しない)はそれほどでもないことが分かりました。
この差は統計的にも有意であり、「蚊に刺されやすい体質」作りに、遺伝子が関与している可能性が高いことを示しています。

左側に一卵性双生児の男の子2人が同じ数の蚊(各10匹程度)に囲まれ、右側に二卵性双生児の男の子と女の子が異なる数の蚊(男の子6匹、女の子3匹程度)に囲まれているイラスト。一卵性双生児の上にDNAらせんマークが表示されている
遺伝子が「蚊モテ度」を左右します。左の一卵性双生児(遺伝子ほぼ同一)は2人とも同じように蚊に囲まれているのに対し、右の二卵性双生児(遺伝子半分共通)では男の子の方により多くの蚊が寄ってきています。遺伝子が作り出す「においの指紋」が蚊の好みを決めているのです。

確かに血液型や遺伝子は「刺されやすさ」を左右するひとつの要因です。
しかし、それだけですべてが決まるわけではなく、これまで述べてきた他の要因と複雑に影響し合って決まります。
結局のところ、蚊にとっては誰もがターゲット候補なのです。

蚊に刺されないための実践対策

ここまで見てきたように、蚊に刺されやすいかどうかは「体質」「におい」「遺伝子」など、なかなか変えにくい要因に左右されることが多いものです。
では、私たちはただ腕をこまねいて蚊のごちそうになるしかないのでしょうか。

ご安心ください。
日常の工夫で刺されにくくする方法はいくつもあります。

環境管理 ― 水たまりをなくす

庭先の植木鉢の受け皿、放置されたバケツ、古タイヤ。
これらはボウフラの保育園のようなものでしたね。
小さな水たまりひとつを放置することは、「ここにごちそうがいます」という看板を立てるのと同じこと。
こまめに水を捨て、網戸の穴を塞ぐことが、最も確実な第一歩です。

服装 ― 黒を避け、明るい色を選ぶ

蚊は暗い色を好む傾向があります。
黒や濃紺の服はクールですが、蚊にとっては「ここに着陸せよ」と光る滑走路のようなもの。
白や淡い色を選べば、それだけでリスクはぐっと減ります。
夏の野外活動では、クールな装いで人の視線を集めるよりも、蚊の視線をできるだけそらすことを優先させましょう。

服装による蚊の寄りやすさの対比イラスト。左側に黒い服装の男性が多数の蚊に囲まれて困った表情でNGマーク、右側に白い服装の男性が少数の蚊のみでリラックスした表情でOKマーク
クールな黒い服は蚊にとって「ここに着陸せよ」と光る滑走路のようなもの。白や淡い色を選ぶだけで、蚊の視線をそらすことができます。夏の野外では、人の視線よりも蚊の視線を意識した服選びが正解です。

身体ケア ― 汗と足を清潔に

汗は乳酸を含むため、蚊にとっては最高の呼び込みサイン。
さらに足裏の常在菌が生み出すにおいも強力です。
運動後や外出から戻ったら、タオルで汗を拭く、足を洗う。
ほんのひと手間で「蚊にモテる体質」をだいぶ改善できます。

虫よけ ― 科学の力を借りる

市販の虫よけスプレーに含まれるディートやイカリジンは、蚊の感覚器官をかく乱し、こちらの存在を見えなくします。
さらに、蚊取り線香や電気式のワンプッシュ剤も有効。
これらは、人類が編み出した数少ない蚊への対抗手段です。
もちろん、使用の際は用量や年齢制限を守ることが肝心です。

蚊対策グッズを円形に配置したイラスト。中央に笑顔の人物、周囲に虫よけスプレー、長袖シャツ、タオル、蚊取り線香、網戸が配置され、各アイテムに日本語ラベル。タイトル「蚊対策防御セット」
蚊との戦いは「装備」が決め手!虫よけスプレーから長袖、蚊取り線香まで、科学の力と日常の工夫を組み合わせた最強防御セット。小さな対策の積み重ねが、夏の夜を「自分の時間」として楽しむ秘訣です。

屋外活動 ― 夏祭りとキャンプは要注意

夕暮れ時の夏祭り、汗をかきながら屋台を歩き、片手には冷えたビール。
これは蚊にとって「ごちそうフルコース」の合図です。

キャンプ場でも同じこと。
楽しいイベントの裏側で、蚊はひそかに宴を準備しています。
こうした場面では、明るい服・虫よけ・こまめな汗対策を徹底しましょう。

小さな対策の積み重ねが、大きな差を生みます。
蚊を完全に避けることは難しくても、蚊のディナーに付き合わさせられる機会を減らすことは十分に可能です。

刺されやすさは「体質+環境+習慣」の掛け算

ここまで見てきたように、刺されやすさはひとつの要因で決まるわけではありません。
体温や呼吸といった体質。
周囲の湿気や水たまりといった環境
服装や行動習慣といった生活の工夫
これらが重なり合うことで差が生まれます。

もちろん、「刺されやすい=弱い」という話ではなく、ただ体質や習慣が生み出す個人差にすぎません。
ある人の声が大きく、別の人は小さい。
蚊にとって魅力的に映るかどうかも、その程度の違いです。

完全に勝てる相手ではないにせよ、工夫次第で共存は可能。
一歩先んじて備えれば、夏の夜を「蚊が主役の時間」ではなく「自分の時間」として楽しめるはずです。

参考文献・出典一覧

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この記事を書いた人

「世界はなぜでできている」編集長兼コンテンツライター。
日本の歴史・文化のナビゲーター。
翻訳・調査・Webマーケティング専門会社の経営者として25年以上にわたり、企業・官公庁向けにサービスを提供。
日本文化・歴史・社会制度への深い理解をもとに、読者が「なるほど」と思える知的体験をお届けします。

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