なぜ「ほっけの開き」は、両側に背骨がついているのか?

焼きほっけの開きと大根おろしを添えた和風の一皿
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なぜ、ほっけの開きは両側に骨がついているのか?

焼き魚の定番、ほっけの開きを食べたとき、左右どちらの身にも背骨やあばら骨がしっかり残っていることに気づいたことはありませんか?

 一般的な開き魚――アジなど――では、骨は片側に寄っているのが普通です。
それに対し、ほっけはなぜ「両側に骨がある」のでしょうか。

これは偶然ではなく、あえて「背骨を真っ二つにする」という独特な切り方によるものです。
この加工法は「センターカット」と呼ばれ、味わいと仕上がりの両面で、ほっけにとって理にかなった方法なのです。

両側に骨を残す深い理由

センターカットには主に2つの理由があります。

第一は、旨みを逃さないためです。

 魚の骨と身のあいだには、薄い膜のような組織があります。
ここがフタとなり、焼いたときに脂や水分が外に出てしまうのを防いでくれます。
両側に骨を残すことで、この膜が両方に働き、旨みをしっかり閉じ込めてくれるのです。

食品科学の専門家・福岡博士は、テレビ朝日の取材に答えて次のように説明しています。

「ホッケの干物は、塩水に漬けて水分を抜き、うま味を凝縮させますが、両側に骨を残すことで脂の流出が防がれ、骨髄のうま味まで味わえる加工法です」

第二の理由は、調理時の身崩れを防ぐためです。

 ほっけは身がやわらかく、加熱や乾燥で崩れやすい魚です。
両側に骨を残すことで骨が芯となり、身を支えて縮みにくくし、見た目も美しく仕上がります。

すべてのホッケがセンターカットとは限らない

ただし、すべてのほっけがセンターカットされているわけではありません。

国産の「真ホッケ」は手作業で背開きにされることが多く、骨が片側に寄ることもあります。
一方、冷凍輸入が主の「縞ホッケ」は、加工効率を重視してセンターカットが主流です。

また、真ホッケは背開き、縞ホッケは腹開きといった違いもあり、開き方の違いには地域性や流通形態が反映されています。

なぜ他の魚は同じ切り方をしないのか?

それほど優れた加工法なら、なぜアジや鯛などでは使われないのでしょうか?

干し網の上に並べられたアジの開き干物
骨が片側に寄るアジの干物。ホッケとは異なり、センターカットには適さない骨の構造をしている。

理由は魚の骨の性質にあります。

 ほっけの骨は比較的やわらかく、専用機械でまっすぐ切ることができますが、アジや鯛の骨は細く硬いため、切断に向きません。
無理に切れば、骨が砕けたり、身が傷んだりしてしまうのです。

一方、骨のやわらかい鮭やサバなどでは、近年センターカットが応用されるようになっています。

センターカットは、機械導入にかなりのコストがかかるため、流通量や魚種の特性に合わせて選ばれる「戦略的な技術」と言えるでしょう。

骨の残し方に、魚を美味しくする知恵がある

ほっけの開きに見られる、両側に骨を残す独特の加工法。
それは、味わいと調理性を高めるために工夫された、合理的で文化的な技術でした。

どちらの身にも骨があるのは、旨みを閉じ込め、形を整えるための知恵のあらわれ。

次にほっけの干物を食べるとき、その形に込められた工夫をほんの少しだけ思い出してみてください。

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