カエルが鳴けば、雨が降る?
都会の夜に、カエルの鳴き声が聞こえることは、もうほとんどなくなりました。
けれども、子どものころ田舎で聞いたあの声が、雨の気配とともに思い出されることがあるかもしれません。
「カエルが鳴くと雨が降る」――どこか懐かしいこの言い伝え。
でも考えてみれば、カエルにそんな“予報官”のような役割が本当に務まるのでしょうか?
この記事では、そんな素朴な疑問をきっかけに、自然と人の距離について少し立ち止まって考えてみます。
なぜカエルは“雨の前”に鳴くのか?
どうやら、カエルはやみくもに鳴いているわけではないようです。
湿度、気圧、そして──恋の季節といった、自然界の変化に応じた“理屈”がちゃんとあります。
昔の人がそれを耳で感じ取っていたとすれば、たいした観察眼です。
まずは湿度。
カエルは肺だけでなく、皮膚でも呼吸します。
その割合は全体の30〜50%にも及ぶといわれます。
湿度が高いと皮膚呼吸がしやすくなり、活動が活発になる。
雨の前は空気中の湿度が上がるため、カエルにとっては「ちょっと鳴いてみるか」という気分になる好条件です。
さらに、気圧の変化にも敏感です。
とくにアマガエルのような種は、気圧の低下を察知して地面に降り、鳴き始める習性があります。
気象予報士が等圧線をにらむように、カエルたちは皮膚と内耳でその変化を受け取っているわけです。

そして何より、鳴くのは恋の季節。
多くのカエルは水辺に卵を産むため、雨でできた一時的な水たまりは、繁殖の絶好の機会です。
気配を察したオスたちは、ライバルより早く、より魅力的な声を上げる。
いわゆる「レインコール(雨鳴き)」という現象です。
自然の変化と生理と本能――これらが重なったとき、カエルたちは確かに声を上げるのです。
“予報官”としては、どこまで優秀か?
理屈があるのは分かりました。
でも、それは当たるのでしょうか?
カエルの天気予報の的中率はどうなのか──記録とデータを見てみましょう。
まず、愛知教育大学が2008年に発表した調査があります。
それによると、アマガエルがよく鳴いた翌日に雨が降った確率は36%。
鳴かなかった日の翌日はわずか11%が雨。
たしかに差はありますが、「予報的中!」と喜ぶにはやや弱い。
もうひとつ、1915年に森直蔵という気象学者が行った調査もあります。
北海道から和歌山まで4地点で4年間、アマガエルの鳴き声と降雨の関係を記録。
その結果、カエルが鳴いてから30時間以内に雨が降る確率は平均62%。
最終的な“的中率”は56%でした。つまり、2回に1回の的中率。
それにしても100年前、AIどころかラジオすらない時代に、これだけの記録をとったのは驚きです。
森直蔵という人の、並々ならぬ観察眼と探究心には、脱帽です。
ただし、現代の気象庁による天気予報の精度は約83%。
数字だけを見れば、カエルよりスマホの方が信頼できます。
とはいえ、どちらが「風情」があるかは……言うまでもありません。
天気予報がなかった頃、私たちはどうしていたか
かつて、天気予報が存在しなかった時代、人びとは何を頼りに空模様を読んだのでしょうか。
そのひとつが、動物たちの行動を観察することでした。
ツバメが低く飛べば雨、アリが巣をふさげば嵐、ミツバチが早く巣に帰れば傘の出番。
羊が群れれば、明日はきっと水たまり。
そんな“天気にまつわることわざ”は、世界中に数多く残されています。
もちろん、現在の科学的見地からは、こうした言い伝えの多くは「根拠に乏しい」とされています。
けれども、動物たちは天気予報がしたいわけではないので、彼らは責められません。
湿度や気圧、気温といった自然の微細な変化に、本能的に反応しているだけです。
そうした変化を「兆し」として読み取り、暮らしの知恵として育ててきたのは、むしろ人間の側でした。
とくに農耕社会において、天気は収穫を左右する“生き延びるための情報”でした。
雨が降るのか、風が吹くのか。
それを知るために、人は空を見上げ、風を感じ、虫や獣の小さな動きに目を凝らしてきたのです。
そして、私たち──
空の仕組みには詳しくなったけれど、空との距離は遠くなった気もします。
鳴いたら雨が降るかどうかは、もう大して重要じゃない
今の都会では、カエルの声すら聞こえないことの方が多いかもしれません。
でも、かつては確かにそこにいて、鳴いていた。
あれは自然と人との距離が、今よりずっと近かった時代の”息づかい”だったのでしょう。

鳴いたら雨が降るのか?
本当のところは、もうどうでもよいのです。
大切なのは、「鳴いてる」と気づけるかどうか。
その小さな変化に、耳を澄ませる余裕と感性が、自分の中にまだあるかどうか。
それが、天気の話であれ、人生の話であれ。
参考文献・出典一覧
- 鶴丸和子「「蛙が鳴くと雨が降る」というのはなぜ? カエルにまつわる言い伝え」Hint-Pot、2024年6月6日(2025年6月13日閲覧)
- 平井敬也「アマガエルが鳴くと雨が降る確率のお話」SEI SHOP、2025年5月5日(2025年6月13日閲覧)
- Weathernews編集部「【6月6日は「かえるの日」】かえるが鳴くと「雨が降る」は本当?」Weathernews、2018年6月6日(2025年6月13日閲覧)
- 講談社「カエルは雨が降ると鳴くって本当?」講談社の動く図鑑MOVE(2025年6月13日閲覧)
- BIOME編集部「どうしてカエルは鳴くのか」BIOME公式ブログ、2019年6月30日(2025年6月13日閲覧)
- 森直蔵「雨蛙と降雨」『気象集誌』第34巻5月号、中央気象台、1915年(2025年6月13日閲覧)[PDF]
- Alia Hoyt「10 Ways Animals Supposedly Predict the Weather」HowStuffWorks、2024年3月12日更新(2025年6月13日閲覧)
- The Weather Channel編集部「8 Animals Thought to Predict the Weather」The Weather Channel、2013年2月18日(2025年6月13日閲覧)
- Jeff Renaud「Birds predict weather change and adjust behaviour by reading barometric pressure」University of Western Ontario(Phys.org)、2013年11月20日(2025年6月13日閲覧)
- Roger Lederer「Can Birds Predict the Weather?」Ornithology.com(2025年6月13日閲覧)
- HomeTeam Pest Defense編集部「Can common household pests predict the weather?」HomeTeam Pest Defense(2025年6月13日閲覧)