なぜAIは「人間らしく」話せるのか?

日本語キーボードとCHAT GPTの文字。人工知能との会話を象徴するイメージ
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なぜAIは、こんなにも「人間らしく」話せるのか?

最近では、スマートフォンやパソコンでAIと会話することが、特別な体験ではなくなりました。
質問すれば自然に返事が返ってきて、時には冗談や気づかいの言葉まで添えてくれる。
まるで本当に人と話しているように感じることもあります。

では、なぜAIはここまで「人間らしい」話し方ができるようになったのでしょうか?
感情があるから?意味を理解しているから?
それとも、意思や信念を持っているのでしょうか?

この記事では、こうした素朴な疑問を出発点に、AIが「人間らしく」話すように見える仕組みを、技術的な観点からやさしくひもときます。

※ここでは、ChatGPTに代表される「GPTモデル(自己回帰型言語モデル)」を前提として、その仕組みを解説します。
他のタイプのAIとは異なる点もあることを、あらかじめご承知おきください。

AIが人間らしく話せるのは、どういう理由ではないのか?

AIが人間のように話すからといって、それが「考えている」ことを意味するわけではありません。

まず、AIには感情がありません
「うれしい」「かなしい」といった気持ちはなく、感情表現も“それらしく見える言葉のパターン”を再現しているだけです。

また、AIは言葉の「意味」を理解しているわけでもありません
「地球温暖化とは何か?」という問いに答えられるのは、その意味を理解しているからではなく、過去の「似た質問と回答のパターン」を大量に学んでいるからです。

さらに、AIには信念や意志もありません
「こう主張したい」「これを伝えたい」と思って発言しているのではなく、最も自然に続きそうな言葉を選び続けているだけです。

なぜAIは「人間らしく」話せるのか?

言葉をつなぐ「確率」の力──AIが自然に話すための技術

AIが自然に話せるのは、「言葉の並び方のパターンを見抜く力」に優れているからです。

ChatGPTのようなAIは、大量の文章を学習する中で、ある語の後に自然に続くのはどんな語か──つまり次に来る語の“確率”を統計的に把握しています。

たとえば「雨が降ったので…」の後には、「傘をさした」「ぬれてしまった」といった表現が高い確率で続きます。
AIはこうしたパターンを手がかりに、最も自然な語を1語ずつ選びながら文章を組み立てていきます。

この仕組みの中核が「言語モデル」です。
とくにChatGPTは「自己回帰モデル」といいますが、文章の冒頭から現在までの語を参照しながら、次に続く語を1語ずつ選び出します。
ちょうど、言葉のしりとりをしている子どものように、AIも前の言葉に導かれながら、次の一語を選び続けていくのです。

書棚が果てしなく続く壮大な図書館の内部。大量の本が並び、光が差し込む。
言語モデルは、まるで果てしない図書館を歩くように、過去の膨大なテキストから言葉のパターンを学び取っている。

その予測精度を飛躍的に高めたのが、2017年に登場した「Transformerアーキテクチャ」でした。
従来のモデルが直前の語だけを見ていたのに対し、Transformerは文全体を見渡し、前の文や冒頭の語までふまえて判断できるのが特長です。

まるで、盤面全体を見渡しながら何手も先を読む将棋の名人のように──AIは文脈の広がりをとらえ、次々と最適な単語を選択し、自然な言葉の流れを生み出しているのです。

巨大な言語モデルが支える表現の豊かさ

AIの人間らしさを支えるもう一つの要因は、言語モデルの規模の大きさです。
「モデルの大きさ」とは、内部にあるパラメータ(重み)の数を意味します。

パラメータは、言葉と言葉の“つながりやすさ”を数値化したもので、
ちょうど、人間の脳でいえば、ニューロン同士の“つながりの強さ”にあたります。

脳では、何度も使われた回路が強化され、特定の反応が起こりやすくなる。
AIでも同様に、ある語に対して“馴染みのある語”を優先的に選ぶしくみが働きます。
しりとりのように、前の語から次をつなぐ──その選び方に個性を与えているのが、パラメータの重みなのです。

GPT-3には、約1,750億個ものパラメータが含まれています。
この膨大な数によって、AIは比喩や語調の変化、あいまいな表現など、微妙な言語パターンまで学び取ることができるのです。

その結果、巨大な図書館並みの知識だけでなく、多様な話し方や語彙の使い分けも可能になります。
たとえば、丁寧語・くだけた口調・専門的な説明など、文脈に応じて自然にトーンを切り替えることができます。

さらに、AIは「事前学習」「ファインチューニング」という2段階の訓練を受けています。
まずは多様な文章から言語パターンを学び(事前学習)、次に会話や要約といった目的に応じて調整されます(ファインチューニング)。

この訓練によって、AIは人間らしい応答を返す能力を高めていくのです。

「ふるまい」を人間が教えている──RLHFという演技指導

それでもAIの話し方に、どこか無機質な印象を持つことがあります。
そこで使われるのが、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)です。

これは、AIの出力に対して人間が「自然/不自然」と評価し、その結果をもとにAIのふるまいを調整していく仕組みです。
まるで俳優が演技指導を受けるように、AIも話し方や言い回しの“演技”を磨いていきます。

黒板の前で子どもが問題を出し、ロボットが腕を組んで考えている様子
AIもまた、人間から“演技指導”を受けながら、自然なふるまいを学んでいる。

もちろん、AIが感情を「感じて」いるわけではありません。
けれども、そうした言葉遣いを巧みに模倣できるため、私たちはそこに意図や思いを感じ取ってしまうのです。

では「正しさ」はどう保証されるのか?

AIが「自然」に話せることと、「正しく」話せることは別の問題です。

たとえば、「富士山は日本で3番目に高い山です」という文は、文としては自然でも、事実としては誤りです。
こうした“もっともらしい誤情報”を減らすために、AIにはいくつかの工夫が加えられています。

ひとつは、先に紹介したRLHFです。
人間の評価者がAIの出力をチェックし、正確な回答に高い報酬を与えることで、AIは「より正しい答え」を返すように調整されていきます。

また近年では、AIが外部の情報源──辞書、データベース、検索結果など──にアクセスして根拠を参照する仕組みの研究も進んでいます。

とはいえ、AIの回答がつねに正しいとは限りません。
ChatGPTの画面にも「重要な情報はご自身でご確認ください」とあるように、AIは“補助的な知性”として使うべきです。

自然な語り口に油断せず、最後の判断は人間自身が担う──それが、AIと健全に付き合うための基本姿勢といえるでしょう。

“人間らしさ”に似たAI、“人間らしさ”が問われる私たち

AIが人間らしく話せるのは、以下の3つの技術が組み合わさっているからです。

  • 言葉のつながりを統計的に予測する力(言語モデル、Transformerアーキテクチャ)
  • 豊かで柔軟な表現を可能にする巨大な言語モデル(パラメータの数)
  • 人間による調整とチューニング(RLHF、事前学習、ファインチューニング)

“人間らしく”話すからと言って、決して人間ではありません。
AIとの適切な距離感を理解し、AIの言うことを鵜呑みにするのではなく、使いこなす。
それが、AIと共に生きる時代に私たちに求められる“人間らしさ”なのかもしれません。

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